気分で報じられる日本株市場 ~ファンダメンタルズ分析を通用しにくくしているのは誰だ?

◆「先物主導」ではなくなって来ている日本株市場
「日本株市場でも昨年後半ごろから『先物主導』という解説がよく聞かれる。もともと外部環境の影響を受けやすく、不安定な値動きを余儀なくされている日本株市場。先進国の金融政策など先を読みにくいマクロ動向が様子見につながるなか、値動きだけをみたコンピューター売買の存在感が一段と増している」(28日付日本経済新聞)

「『先物主導』という解説がよく聞かれる」といいますが、そのような解説をしているのはどこの誰なのでしょうか。さらに気掛かりなのは、こうした客観的データに基づいたものとは言えない解説が投資家の間でまかり通ってしまっていることです。

「不安定が値動き」というのはボラティリティを指しているのだと思いますが、ボラティリティは数値として算出されるものです。そのボラティリティがどの位なのかというと、27日の約300円高を入れても20.8%(21営業日ベース)です。90年のバブル崩壊以降の日経平均のボラティリティの平均は概ね20%ですから、直近特に「不安定な値動き」が高まったわけではありません。

日経平均とVolatility

また、この記事は「先物主導」の相場が「不安定な値動き」を動きの原因であるというような書き方になっています。しかし、日経平均のボラティリティの推移をみてみると、アベノミクスが始まった2013年から2014年の4月にかけての方が水準は高く、「不安定な値動き」が強かったといえる状況だったことがわかります。

「先物主導」というのは、先物取引を利用した裁定取引が現物株価を動かしているという意味で使われているのだと思います。しかし、同じ紙面に掲載されている「裁定取引に伴う現物株売買及び残高」データをみると、23日時点での裁定買残高は約16億2250万株と、この2年間で最低水準にあります。

裁定買残の規模は昨年9月の約24億6642株から減少傾向を辿っています。それに対して27日時点の日経平均は9月末比で1594円、率にして約10%上昇しています。さらに、19~23日の週に日経平均が647円(3.8%)上昇したのに対して、裁定買残は僅か91万2千株しか増えていません。

こうした状況からいえることは、日本の株式市場は「昨年後半ごろから『先物主導』」ではなくなって来ているということです。

客観的なデータが示すものとは正反対の「昨年後半ごろから『先物主導』という解説がよく聞かれる」という解説が堂々と紙面を飾っていることは驚きでもあります。同じ紙面に掲載している「裁定取引に伴う現物株売買および残高」というデータを全くみないで、気分だけで記事を書いているのでしょうか。

◆「外部環境の影響」を受けにくくなっている日本株
裁定取引に伴う現物株買残高が少ないということは、裁定取引が相場の波乱要因になり難いということですから、投資家にとっては不確定要素が少なくなっているという面において好材料でもあります。

一方、裁定買残が減少傾向にあるということは、アウトライト取引(売り買いを単独に行う取引)で先物を買う投資家が減少して来ていることでもあります。これは、先高観の減少あるいは市場としての魅力の低下を表すものですから、投資家にとって必ずしも歓迎すべきものではありません。

記事の中では、「もともと外部環境の影響を受けやすく、不安定な値動きを余儀なくされている日本株市場」という尤もらしい指摘もされています。しかし、海外投資家の買越額が2013年の15兆1196億円から、2014年には8527億円と急激に減り(先物は6973億円の売り越し)、さらに今年に入ってから既に8853億円の売り越しに転じる中でも、日経平均の「不安定な値動き」は減り、上昇基調を維持しています。つまり、「外部環境の影響」を一番反映する海外投資家が日本株投資に消極的な姿勢に転じる中、日本の株式市場は「外部環境の影響」をものともせずに堅調な展開を続けているのです。

日本の株式市場が「外部環境の影響」をものともせずに底堅い展開を続けているのは、「内部環境の影響」が強くなって来ているからです。

それを裏付けるように、2013年には約4兆円日本株を売り越していた「信託銀行」は、2014年には2兆7848億円の買い越しに転じ、2015年に入ってからすでに2140億円を買い越しています。さらに、日本銀行は2014年度に入って26日までの間にETFを1兆2564億円購入しています。そのうち2761億円は2015年に入ってから購入しています。期間的に10%程度の間に総額の22%を購入しており、市場において日銀の影響力を増して来ているといえる状況にあります。

◆ファンダメンタルズ分析を阻むのは「自動売買」か「政治的判断」か
「善しあしではないが、人間の判断力に基づくファンダメンタル分析が通用しにくくなれば、多様な相場観からなる市場の『価格発見機能』も損なわれてしまう。」(同日本経済新聞)

日本経済新聞はこのような解説を加えています。しかし、客観的データからは浮かんでくる日本の株式市場の姿は、「異次元の金融緩和」と「GPIF改革」というファンダメンタルズとは関係のない政治的判断が価格決定要因として強くなって来ているという、日本経済新聞の主張と正反対のものです。

ここに来て「人間の判断力」に基づくファンダメンタル分析が通用しにくくなっているとしたら、それは「コンピューター売買」の影響ではなく、「政治的判断」によって価格形成がされるようになって来ていることが原因だと考えた方が賢明だと思います。

年金資金や日銀の介入によって、株式市場における「政治的判断」の影響力が「人間の判断力」より大きくなって来たことに呼応するかのように「海外投資家」が日本株投資に消極的になって来ている事実は、「海外投資家」は「政治的判断」の影響力が強い市場を敬遠している可能性も伺わせるものです。

2013年に大きく日本株を買い越した「海外投資家」は、「政治的判断」によって参入して来た日本の年金や日銀に売却することで利益を確定しています。そして、「政治的判断」によって「海外投資家」から高値で日本株を買い取った日銀や年金が利益を確定するためには、将来「人間の判断力に基づくファンダメンタル分析」によって「海外投資家」が今より高い価格で買い取ってくれなくてはなりません。

もし「海外投資家」が「政治的判断」の影響が色濃く出る市場を敬遠しているとしたら、「政治的判断」で株価を維持しても、日銀も年金も利益を確定する機会を得られないということになります。

「『ファンダメンタルズ回帰』が今年の市場を読む重要なキーワードだ」(同日本経済新聞)

この記事は、こうした言葉で締め括られています。しかし、重要なことは、ファンダメンタルズ分析が通用しにくくなった原因が何処にあるのかという点です。客観的データが示していることは、その原因が「自動売買」ではなく、「政治的判断」である可能性です。

この記事には「なるかヒトの復権」という小見出しが付けられていますが、そのためにまず必要なのは、国内投資家が、客観的なデータを客観的に判断する習慣を身に付けることです。その過程では、マスコミが情報を歪めずに伝えることも重要です。客観的データを都合の良いように加工した情報に基づいた「ファンダメンタルズ分析」によって投資効果を上げて行くことは出来ないのですから。

日本で個人投資家を育てられるかは、マスコミがどれだけ「政治的判断」から中立的な立場で客観的情報を伝えられるかに懸かっているといっても過言ではありません。

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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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