長期金利上昇 ~ 露呈したもともと高くなかった「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」

■長期金利の水準で「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」を測るのは適切でない
「国債市場の不安定な動きが、円相場や株式相場を揺さぶっている。13日には5年物国債の入札不調をきっかけに、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2カ月ぶり水準に急上昇し、円高・株安の主因となった。長期金利は1月20日に過去最低の0.195%をつけた後、反転上昇している。日銀の金融緩和に対し市場の疑念が広がっているのが主因だ」(14日付日本経済新聞 「国債入札不調で長期金利上昇」)

「日銀の金融緩和に対し市場の疑念が広がっている」ことが要因で、長期金利が急上昇していると報じられています。

果してこうした報道は正しいのでしょうか。

長期金利の動向は、今の局面では「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」を測る指標としては適切だとはいえません。

「長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。ただし、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の状況に応じて柔軟に運営する。買入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長する」(2014/10/31 日本銀行~「量的・質的金融緩和」の拡大)

日銀は10月31日に追加緩和に踏み切った際、「イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から」、「買入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長する」と発表しています。

7年債の利回りが0.221%、10年債の利回りが0.466%と極めて低い水準でしたから、「イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から」というのは、円安圧力を強めるためにマネタリーベースを増やしたいという本音を隠すための詭弁でしかありません。

そこで、持ち出したのがイールドカーブの勾配がややきつくなっている7年~10年の金利を引き下げるために「買入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長する」という尤もらしい詭弁だったということです。
日本イールドカーブ(追加緩和後)

■ほとんど縮小していない利回り格差
日銀自身が追加緩和の目的が「7年~10年ゾーンの金利を引き下げ、イールドカーブをフラットニング化する」ことだとしたのですから、「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」を測るのであれば、この7年国債と10年国債の利回り格差を見なければなりません。

この7年国債と10年国債の利回り格差(=10年国債利回り-7年国債利回り)は、追加緩和に踏み切った10月31日時点では0.245%でした。そして追加緩和後も利回り格差は概ね0.2%台で推移、10年国債利回りが史上最低水準まで低下した1月20日付近で一時0.177%まで縮小した後、12日時点では再び0.2%台に広がって来ています。

つまり、追加緩和のターゲットであった利回り格差の縮小はほとんど実現しておらず、この点からは「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」は、全く高まっていなかったと言えます。

追加緩和後の利回りとSpread

これまで日本のメディアは、新発10年国債利回りが低下傾向にあったことを、「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」の表れだと報じて来ました。しかし、10年国債利回りが一時0.19%台まで低下したのは、「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」が上昇したからではなく、単に追加緩和に踏み切った時点で1バレル80$台だった原油価格が、1月末に44$台まで大幅に下落したことによる、期待インフレ率の低下によるものだったといえます。

「日銀の金融緩和に対する市場の信認度」を測るうえで重要な10年国債と7年国債の利回り格差が一時0.177%まで縮小したのも、原油価格の下落に伴う期待インフレ率の低下によって、10年国債の利回りが低下した結果に過ぎません。

市場関係者の間では、日銀によるさらなる追加緩和に対する期待が根強く残っているようです。しかし、追加緩和によって「買入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長」しても、利回り格差は縮小しなかったという事実を忘れてはいけません。

■信認を失う以外に円安手段が無くなった?
端的に言えば「追加緩和は日銀自らが掲げた目的(利回り格差縮小)を達成できていない」ことが明らかになって来ています。こうした中で日銀がさらなる追加緩和に踏み切るとしたら、日銀はどのような詭弁を使うのでしょうか。

「為替を円安に誘導するため」とは口が裂けても言えないでしょうから、「イールドカーブ全体の金利低下を促す」という以外の詭弁を用意するか、「目的を達成できていないこと」が明らかになりつつなる中で同じ詭弁を繰り返すしかありません。

日本経済新聞は、長期金利の反転上昇によって「日銀の金融緩和に対し市場の疑念が広がっている」と報じています。しかし、利回り格差の推移からいえることは、市場は日銀の追加緩和はこれまでも評価して来ていなかったということです。

これまでは、市場が抱いていた金融緩和に対する疑念を、原油価格の下落が覆い隠していたに過ぎません。それが、原油価格が底打ち反転したことでお化粧が落ち、素顔が見えてしまったというのが現実に近いと思います。

さらなる追加緩和に踏み切るとしても、再度「イールドカーブ全体の金利低下を促す」という詭弁を使えば、自ら10月31日に実施した追加緩和が所定の目的を達さなかったことを認めることになります。また、新たな詭弁を持ち出したところで、追加緩和が失敗に終わったという事実を変えることは出来ません。

このような状況の中で、日銀は市場で広がって来ているという「日銀の金融緩和に対する疑念」を払拭することが出来るのでしょうか。

残された最後の選択肢は、「為替を円安に誘導するため」と本音をぶちまけることかもしれません。中央銀行のタブーを破れば「市場の疑念」は「国際社会の疑念」に昇華しますから、期待通りに円安に振れるかもしれません。

「日銀の金融緩和に 対する疑念」が高まることによる円高か、「国際社会の疑念」に昇華することによる円安か。

投資家にとって重要なことは、「日銀の金融緩和に対する疑念」が高まって来ているなかで、日銀はこうした状況から脱却する適当な手段を持ち合わせておらず、どちらかを受け入れなくてはならなくなる可能性があることを認識しておくことかもしれません。

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コメント

国内での国債消化余力が無くなっており、

本音をぶちまけるなら、
私は国債の売れ残りを防ぐためではないかと思っています。日銀の資金循環報告によれば、家計資産は1600兆円ありますが、そのうち300兆円は証券、ほとんどが株式です。また住宅ローンが300兆円ほどあります。ということは国内での公債(国債+地方債)消化余力は1000兆円ほどです。一方、政府債権は国債1000兆円と地方債200兆円があります。日本銀行が240兆円ほど国債をもっていますが、この日銀の国債保有がないと国内で消化できなくなります。これが異次元緩和の本音ではないかと思っています。昨年秋の追加異次元緩和はGPIF,ゆうちょの国債保持額減額にタイミングも金額も良く会っています。ゆうちょ銀行は年間20兆円ほど国債保持額を減額しています。GPIFも同様の減額でしょう?。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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